ひとりごと、指紋
数年前のこと。
ふらりと小さなコンサートを聴きにいった帰りがけ、突然「もしかして、しおりちゃんですか?」と、年下っぽい女の子から声をかけられたことがある。
幼い頃、チェロのお教室で一緒だったと、相手が教えてくれた。いわゆる妹弟子。申し訳ないことに、私はあまり、相手を覚えていなかった。
その女の子は、私に、「まだ、チェロ弾いてますか?」と聞いてくれて、「よかった、しおりちゃんのチェロの音、好きだったので。」と。
ぼんやり、白昼夢を見ているよな気持ちで帰った。
いまの私の演奏を知らないのに、弾いていてよかったといってくれる人がいるのは、不思議なことだ。
私たちは、自分の知らないところで人とふれあい、指紋をつけて歩いている。
拭き取っても、拭き取っても、べったりと。