ひとりごと、指紋
数年前のこと。
ふらりと小さなコンサートを聴きにいった帰りがけ、突然「もしかして、しおりちゃんですか?」と、年下っぽい女の子から声をかけられたことがある。
幼い頃、チェロのお教室で一緒だったと、相手が教えてくれた。いわゆる妹弟子。申し訳ないことに、私はあまり、相手を覚えていなかった。
その女の子は、私に、「まだ、チェロ弾いてますか?」と聞いてくれて、「よかった、しおりちゃんのチェロの音、好きだったので。」と。
ぼんやり、白昼夢を見ているよな気持ちで帰った。
いまの私の演奏を知らないのに、弾いていてよかったといってくれる人がいるのは、不思議なことだ。
私たちは、自分の知らないところで人とふれあい、指紋をつけて歩いている。
拭き取っても、拭き取っても、べったりと。
ひとりごと、ひとり遊び
小さい頃、姉が忙しいときの私のひとり遊びは、落書きとか、工作とか、作曲とか、リビングのテーブルで、おとなしく作業できることだった。
あとは、ひたすら読書とか。
裏の白いチラシを、母がたくさん集めておいてくれたので、それに絵を描いて、文字を書いて、音符を書いて、切り刻んで貼り付けて、出来上がっては家族に見せて、あとはごみ箱へ、ポイポイ捨てていた。
そのまま、この歳になった気がする。
手持ち無沙汰で、なんとなく落書きをして、なんとなく曲を作って。
特に作曲はいい。移動中でも、ふとんのなかでも、脳内だけでできるので、便利だ。準備も片付けも必要ない。いつでも始められて、いつでもやめられる。
そうして出来たものたちは、ごく稀に、誰かに触れて、興味を持たれることがある。そうすると、少しの間は残る。そしていずれ、消える。
誰の目にも触れなければ、やはりそれもまた、どこかへ消えていく。
生産性のない、生産型の遊び。
歌詞 あじさいのシャーベット
つばめ ひらり雨に 溺れてみんな溶けた
淡いむらさきの 歌がきこえた
あじさいのシャーベット
スプーンですくって
食べたら梅雨が明ける
あじさいのシャーベット
床に落っこちて
消えたら星がにじむ
つばめ ひらり風に 揺られてどこへ行くの
つばめ 夜の向こうの 歌をきかせて
歌をきかせて
作詞・作曲 しおり